何もない世界

日々感じたことを書いています。

「翔ぶが如く」全10巻 司馬遼太郎

例えば、自分が生まれる何年か前に戦争が起こって、人がたくさん死んだとしても、それを教わらなければ、自分は知る由もない。仮に教わったとしても、自分が本当に見て、体験した訳ではないから、嘘か本当か分からない。もしかしたら、自分が生まれる前に起こったとされていることが全部嘘かもしれない。

 

日本で一番最近起こった内戦は、明治10年(1877)の西南戦争。今回読んだ「翔ぶが如く」も明治政権の樹立から西南戦争までの流れが書かれています。

去年の9月に読み始めて、約4か月かかってようやく読み終わりました。長かった。

これで司馬遼太郎の三大長編「竜馬がゆく」「翔ぶが如く」「坂の上の雲」を全部読みました。時代の流れからすると読む順番が前後してますが、明治維新から西南戦争の時代は、幕末や近代よりもなんとなく地味なイメージがあったので、なかなか読む気になりませんでした。ですが読み終えてみると、てっきり明治が始まるとともに幕末の革命は終了と思っていましたが、全然そんなことはなく、むしろ西南戦争西郷隆盛の破滅、翌年の大久保利通の暗殺までが幕末だと思いました。

この西郷隆盛と言う人間は、もともと幕府を倒そうとしていたテロリストであり、倒幕を成功させ明治政権の樹立に貢献しておきながら、その新政府に反乱を起こして破滅してしまった。政府に対して反乱を起こした逆賊でありながら、なぜか上野に銅像が建てられたり英雄視されている。西郷は革命後の国家運営をどうしていくかと言う考えを持っていなかったらしい。そう考えると、革命家よりテロリストと言った方がしっくりくると思いました。

 

革命という言葉は不思議な力を持っている気がします。

チェ・ゲバラもそうかもしれないですが、革命家は、もしかしたら革命に憑りつかれているのかもしれません。国を憂い、政府と戦い、貧しい人たちを助ける。実はそれ自体がエゴの塊で、革命を起こすことに快感を感じているのかもしれません。ゲバラキューバで革命に成功した後に、革命の起こせそうな国を探してまで革命を求めていた。西郷も日本で革命に成功すると革命を韓国に輸出しようとして征韓論を唱えて、西南戦争の引き金になった。

 

小説の中で、西郷の睾丸が巨大だったという話が何度か出てきてとても印象的でした。どうやら島流しにされたときに病気にかかったことが原因らしいですが、印象に残りすぎて、西郷=睾丸巨大のイメージが定着してしまいました。

あと印象的だったのは、西南戦争より数年前に江藤新平が明治政府に対して反乱を起こしたとき(佐賀の乱)首魁の江藤新平は捕らえられ梟首され、首の写真を撮られてばらまかれたこと。明治政府といっても内実は大久保利通独裁政権であり、天皇の威を借りる事によって、あたかも太政官政権が揺るぎない巨大なものと見せかけていた所に大久保の凄みを感じました。